900円ほどのマイクと無料の録音ソフトから、宅録ナレーターとしての活動を始めた畑耕平さん。
最初の案件は370円。
声の仕事だけで見れば、年収740円という時代もありました。
それでも畑さんは、自分で営業し、収録し、少しずつ実績を積み重ねていきます。
その後、BMWのCMやテレビ番組のナレーションをきっかけに、声の仕事は大きく広がっていきました。
そして、畑さんの仕事にさらに大きな転機をもたらしたのが、YouTubeチャンネル「ヒューマンバグ大学」との出会いです。
今回お届けするのは、YouVoice Academyとshikisaiによるコラボ対談のPart3です。
ここからは、shikisaiの石塚さんと畑さんの対話形式でお届けします。
ヒューマンバグ大学との出会い

石塚さんPart2では、宅録ナレーターとして仕事が増えていくまでのお話を伺いました。そこから、ヒューマンバグ大学との出会いはどのような経緯だったんですか?
畑さん声の仕事が安定して、月40万円くらいになっていた時期がありました。朝に営業をして、数時間収録すれば生活が成り立つようになっていたんです。
石塚さんかなり理想的な働き方に近づいていたんですね。
畑さんそうですね。ただ、仕事が増えるにつれて、クライアントから「女性ナレーターはいませんか」「畑さんとは違う声質の人はいませんか」と聞かれることが増えてきました。
石塚さん畑さん一人では対応しきれない案件が増えてきたんですね。
畑さんはい。最初は知り合いに声をかけて、ボイスサンプルを取ってもらって、クライアントに確認していました。でも、それがかなり大変だったんです。
石塚さんそこで事務所の形にしていったんですね。
畑さんそうです。個人事業として、私を含めて5人くらいの小さな形から始めました。そこから、これまで取れなかったような仕事も少しずつ取れるようになっていきました。
石塚さんその流れの中で、ヒューマンバグ大学の話が来たんですか?
畑さんはい。クラウドソーシング上のアカウントから、YouTubeで漫画を動画にしたチャンネルを作るので、声を当ててもらえないかという話が来ました。
石塚さんその時点で、それがヒューマンバグ大学だったんですね。
畑さんそうです。もらったリンクを見たら、ヒューマンバグ大学でした。ただ、その時はまだ動画が1本くらいで、登録者も7人くらいだったと思います。
石塚さん今の規模を考えると、信じられないですね。
畑さん本当にそうですね。最初は「なんだこれは」と思いました。毎日更新すると書いてあったんですが、条件も自分の単価とは少し合わないと感じました。
石塚さんそれでも引き受けたのは、何か可能性を感じたからですか?
畑さんそうですね。こういう形の動画があるのは面白いと思いましたし、ちょうどヤシロこーいちというナレーターが入った直後だったので、彼に合いそうな仕事だと思ったんです。
石塚さんそこでヤシロさんを提案されたんですね。
畑さんはい。この声優でどうですかと提示したところ、ぜひお願いしますという話になりました。それが、ヒューマンバグ大学との最初の出会いです。
最初は100再生、200再生だった

石塚さん最初から大きく伸びていたわけではなかったんですね。
畑さん全然そうではありません。最初の1ヶ月くらいは、仕事として音声を収録して納品して、完成した動画を見ても100再生、200再生くらいでした。
石塚さん毎日投稿していても、すぐに伸びるわけではなかったんですね。
畑さんそうですね。当時は漫画動画というジャンルも、まだそこまで確立されていませんでした。なので、毎日投稿してどうなるんだろうという気持ちもありました。
石塚さんそれでも、面白さや可能性は感じていたんですか?
畑さんはい。面白さはありました。ただ、将来性があるのか、正直その時点では何とも言えない部分もありました。
石塚さんそこから一気に変わるきっかけがあったんですよね。
畑さんはい。佐竹博文というキャラクターの死刑執行の動画がありまして、それが投稿から1週間か2週間くらい経って、急に伸び始めたんです。
石塚さんどのくらい伸びたんですか?
畑さんそれまで数百再生だったのが、ある日1万再生になっていて、次の日には3万再生になっていました。さらに1週間後には10万再生を超えていました。
石塚さん一気に世界が変わった感じですね。
畑さん本当にそうです。気づいたら100万再生になって、登録者も一気に増えていきました。そこから急激に見える景色が変わりました。
漫画動画とYouTubeナレーターの可能性

石塚さんヒューマンバグ大学が伸びたことで、YouTubeナレーターの仕事も変わっていったんですか?
畑さん大きく変わりました。ヒューマンバグ大学が伸びて、ヤシロにも毎日仕事が来るようになりました。兄弟チャンネルもできて、漫画動画の仕事が広がっていきました。
石塚さんそこから、漫画動画という市場ができていったんですね。
畑さんそうですね。収益が出ると、同じようなチャンネルを始める人や会社も増えていきました。宅録ナレーターとYouTubeの仕事が結びついた瞬間だったと思います。
石塚さん漫画動画では、ナレーターや声優の役割もかなり大きそうです。
畑さん大きいと思います。台本や資料から、クライアントが求めていることを読み取って、できれば想像を良い方向に超える必要があります。
石塚さんスタジオ収録とは違う難しさがあるんですね。
畑さんはい。宅録では、その場に音響監督やディレクターがいないことも多いです。だからこそ、資料から何を求められているのかを理解する力が大切になります。
石塚さんただ声を読むだけではなく、読み取る力も必要なんですね。
畑さんそうです。チャットでのやり取りから要望を拾う力も必要です。細かく聞きすぎるとクライアントの負担になるので、簡潔に大事なことを聞く力も求められます。
石塚さん石塚さん:
宅録声優には、演技力だけではない力も必要なんですね。
畑さんそうですね。演技力があるに越したことはありません。ただ、その前に何を求められているのかを理解することが大事です。
キャラクターを自分で作っていく仕事

石塚さん漫画動画では、キャラクターの声を自分で作っていくこともあるんですか?
畑さんあります。運営側が細かく指定するチャンネルもありますが、お任せしますというチャンネルもあります。
石塚さんお任せというのは、かなり難しそうですね。
畑さん難しいですね。キャラクターデザインや資料、物語の流れから、このキャラクターならどんな声になるかを考えていきます。
石塚さん具体的には、どんなふうに考えるんですか?
畑さん例えば、血を飲むようなキャラクターがいたとします。普通の人が喉に通さないものを通し続けているなら、声が出しにくくなっているのではないか、と考えるんです。
石塚さんキャラクターの背景から、声の状態まで想像するんですね。
畑さんそうです。喉に傷があるなら、声が裏返るかもしれない。そういう発想から、キャラクターの声を作っていくことがあります。
石塚さんかなり細かいところまで考えられているんですね。
畑さんはい。ただ、ヒューマンバグ大学は今かなり戦闘シーンも多いので、熱量を求められる回も増えています。
石塚さん収録もかなり大変そうですね。
畑さん大変です。喉から血が出るくらい全力で叫んで、収録が終わった瞬間に膝から崩れ落ちるような時もあります。
石塚さんそこまで命を削るような収録なんですね。
畑さん本当にそうです。ブースの中がサウナ状態になって、汗だくになりながら収録することもあります。
YouVoice Academyを立ち上げた理由

石塚さん畑さんは現在、YouVoice Academyも運営されていますよね。このスクールは、どのような思いで始められたんですか?
畑さんAdroaigでは、声にまつわる仕事全般を受けています。その中でも、YouTubeの仕事がかなり大きな割合を占めるようになりました。
石塚さんYouTubeナレーターの需要が増えてきたんですね。
畑さんそうですね。チャンネルが増える中で、新しい人材も必要になっていきました。最初はスカウトのような形で声をかけたり、経験者を募集したりしていました。
石塚さんでも、それだけでは限界があったんですね。
畑さんはい。だったら、1から育てた方がいいのではと思いました。Adroaigで培った経験やノウハウを、ゼロからの人に教えた方が、適した人材が育つのではと考えたんです。
石塚さんそれが、YouVoice Academyにつながっているんですね。
畑さんそうです。YouTubeナレーターに特化したスクールとして立ち上げました。
石塚さんYouVoice Academyでは、どんなことを学べるんですか?
畑さん基本的には、ゼロから仕事を取れるようになってもらいたいと思っています。養成所は事務所に所属するための道であることが多いですが、うちは所属だけをゴールにはしていません。
石塚さん仕事を取る方法まで学ぶ、ということですね。
畑さんはい。そのために必要なスキルや基礎、営業方法も含めて伝えています。未経験でも、どうやって仕事を取っていくのかを学べる形にしています。
ヒューマンバグ大学声優学部という新しい取り組み
石塚さんヒューマンバグ大学との新しい取り組みについてもお話がありましたね。
畑さんはい。ヒューマンバグ大学と正式に、スクールとしてタイアップしていく形が整いました。
石塚さんそれが、ヒューマンバグ大学声優学部ですね。
畑さんそうです。完全に名前が変わるわけではありませんが、ヒューマンバグ大学の原稿やラフなど、外部に出ない資料を使ったカリキュラムを組んでいく予定です。
石塚さん実際の資料を使って学べるのは、かなり貴重ですね。
畑さんそうですね。よりヒューマンバグ大学をはじめとした漫画動画に慣れてもらうためのレッスンを増やしていきます。
石塚さんヒューマンバグ大学のファンにとっても、興味深い内容ですね。
畑さんはい。むしろヒューマンバグ大学のファンでいてくれた方が、仕事が決まった時に世界観の理解が深いと思います。
石塚さん作品への理解が、声の仕事にも活きるということですね。
畑さんそうです。ヒューマンバグ大学には、キャラクターや設定がたくさんあります。そこを理解している方は、大きな強みになる可能性があります。
漫画動画という文化を広げていきたい

石塚さん今後、畑さんはどのような展望を持っているんですか?
畑さん漫画動画という文化を、もっと広げていきたいと思っています。
石塚さんヒューマンバグ大学だけでなく、漫画動画全体の可能性を感じているんですね。
畑さんはい。昔の名作漫画をYouTubeでボイスコミック化する流れも出てきています。闇金ウシジマくん、静かなるドン、サラリーマン金太郎、男塾など、いろいろな作品があります。
石塚さん漫画が動画になることで、新しい読者や視聴者にも届きそうですね。
畑さんそうです。YouTubeで公開することで広告収益も生まれますし、漫画の単行本が売れるという流れも出てきています。
石塚さん無料で公開すると本が売れなくなるのでは、という懸念もありそうですが、逆の効果もあるんですね。
畑さんそうですね。実際にデータとしても、YouTube公開によって再生数からの収益が出て、単行本も売れるという流れが見えてきています。
石塚さん漫画動画は、アニメとはまた違う可能性があるんですね。
畑さんはい。漫画があって、漫画動画になって、そこで人気が出たらアニメになる。そういう流れも増えていくかもしれません。
これから必要になるのは、新しい声

石塚さん漫画動画の市場が広がるほど、声を担当する人も必要になりますよね。
畑さんまさにそこです。今後チャンネルが増えれば増えるほど、ナレーターの数も必要になります。
石塚さん同じ人ばかりが出ると、作品ごとの違いも出しづらくなりますよね。
畑さんそうなんです。僕自身もヒューマンバグ大学で1人で30役くらいやっていますし、他のチャンネルにも出ています。
石塚さんすごい数ですね。
畑さんありがたいことですが、視聴者から「またヒューマンバグ大学の声優か」と言われることもあります。嬉しい声もありますが、どの作品も同じ声ばかりでは良くないとも思っています。
石塚さんだからこそ、新しいナレーターを育てる必要があるんですね。
畑さんはい。ゼロから育てたナレーターを増やして、「こういう新人が入りました」と提案していきたいです。Adroaigに依頼すれば、どんなキャラクターでも段取りできる状態を作っていきたいと思っています。
石塚さんYouVoice Academyは、その未来を作るための場所でもあるんですね。
畑さんそうですね。漫画動画という文化が広がっていく中で、そこに参加できる人を育てていきたいです。
声の仕事に興味がある方へ
石塚さん最後に、YouTubeナレーターや漫画動画の声の仕事に興味を持っている方へ、メッセージをお願いします。
畑さんYouTubeナレーターという業界は、まだまだ小さいです。ただ、これから大きくなっていく漫画動画という文化を作る時代に、今いるのかもしれないと思っています。
石塚さんまさに、これから広がっていく市場なんですね。
畑さんはい。そこに共感してもらえるのであれば、皆さん一人ひとりの声が、Adroaigやヒューマンバグ大学、Kコンテンツにとっての武器になるかもしれません。
石塚さん自分の声が、作品を支える一部になる可能性があるということですね。
畑さんそうです。やってみたいという方は、ぜひ一度話を聞いてみてもらえたらと思います。
石塚さんYouVoice Academyでは、未経験の方でも学べる環境があるんですよね。
畑さんはい。声の出し方や表現だけでなく、仕事につなげる考え方も含めて学べるようにしています。興味がある方は、まずは一歩踏み出してみてほしいです。
shikisai対談を終えて
3回にわたってお届けした、YouVoice Academyとshikisaiによるコラボ対談。
Part1では、畑さんが声の仕事を始めた意外なきっかけを伺いました。
最初から声優に強い憧れがあったわけではなく、人と話すことも得意ではなかった畑さん。
それでも、養成所での悔しさをきっかけに、少しずつ声の仕事と向き合っていきました。
Part2では、宅録ナレーターとして仕事を取っていく過程を紹介しました。
900円ほどのマイクから始まり、最初の案件は370円。
決して華やかなスタートではありませんでしたが、自分で営業し、実績を積み重ねることで、声の仕事を仕事にしていきました。
そしてPart3では、ヒューマンバグ大学との出会い、漫画動画市場の広がり、YouVoice Academyに込めた想いをお届けしました。
声の仕事は、特別な人だけのものに見えるかもしれません。
しかし、畑さんの歩みを見ると、最初から完璧である必要はないことが分かります。
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